かくれ里

 林吾りんごと引き離されたさき・・実臣さねおみが連れてこられたのは、竹林の中にあった粗末な小屋だった。引き戸を開けた先頭の男が顎を動かすと、ふたりの背中を背後の男たちが思い切り押す。
 たたらを踏みながらさきたちが小屋に入った瞬間、勢いよく戸が閉まった。

「おい!」

 実臣が戸を叩き、ガタガタと揺するが、つっかえ棒がされたのか開かない。

「おとなしくそこにいろ」
「なんでこんなことをする? 俺たちが何をした!」
「うるさいぞ。観念しろ」
「おい、見張ってろよ」
「わかった」

 ボソボソとした話し声が聞こえたあと、数名の足音が遠ざかっていく。

「待てよ!」
「……鷹屋たかやさん」

 どうしましょうとさきが呟くと、実臣は振り返った。

「意味がわからなすぎる。大体において、ここはどこだ? 結倉ゆくらじゃないことはわかるが……」
「霧雨が濃くなったタイミングで、何かが起こったんだと思います。でも神隠しとも違うような……」
「林吾が言ってたみたいに異界に迷い込んだ?」

 実臣が唇を軽く歪める。
 さきは、少し考えるように顎に指先を押し当てた。

「あながち……間違っていないのかも。ただ、桃園くんだけは【仲間】だと言っていたのが気になりますけど」
「わからないことだらけだが、とにかくあいつと合流して、こんなとこから脱出しないとな」

 そう言うと実臣は格子窓に近づき、外を覗く。
 戸の前に男がひとり立っていた。見張りは彼だけのようだ。今度は部屋を見渡す。土間と板間に囲炉裏。最近使われた様子はなく、埃っぽかった。
 逃げ出すには戸を蹴破って、見張りの男を振り切るほかなさそうだ。さきだけでも逃がすことは可能だろうか。実臣は考える。やれないことはないだろう。だが、ここがどこかもわからない状態で、判者はんざだけにするのも不安ではあった。

「鷹屋さん」
「うん?」
「私に考えがあります」
「え……」

 見上げてくるさきがどこか笑みを湛えているのを見ると、実臣はぱちくりと瞬きをした。


 そのころ林吾は坂をくだり、集落のひとつの家に招き入れられていた。
 板間の上に置かれた座布団に座り、目の前に置かれた黒々とした液体を睨む。さきほど女性が「山ぶどうのジュース」だと言って、置いていってくれたものだ。いつもなら喜んで手に取る林吾だが、今はジュースよりも大切なことがある。

「説明してくれ。先輩たちはどこへ行った? なんでこんなことするんだよ。ふたりを連れてこいよ!」
「何を言ってる。あれは贈り物だろうに」
「贈り物……?」

 囲炉裏を挟んで座る、先ほどの老人が怪訝そうな表情を浮かべた。それにつられて、林吾も思い切り眉をよせる。

「お前はこの里への移住を希望だろう? だから、あの者たちを土産にしてきたのであろう。それをなんだ、連れてこいだのと。もうあれらはわしらのものだ」
「なんで先輩が爺さんたちのものなんだよ! んなわけないだろ! てか、イジュー? ……あ、移り住むってことか。は? オレは今も昔もこれからも結倉で暮らすっての!」
「結倉だと……そうか、お前、あの土地の」

 老人の表情に、初めて不安そうなものが浮かび、落ち着かなげに身体を揺すり始めた。

「あの土地は好かん。気配が強すぎるでな。あんなとこに住みたいなんて、わしなら思わんね。人間どもがバランスを取ってるみたいだが、しょせん、神の真似事に過ぎん。この間だって、そうとうに危なかったではないか。ここまで被害が及ぶかと思うたわい」
「人間どもって……」

 なんだこの爺さん。
 しかも、「この間」というのは、常夜と通じかけたときのことだろうか。だが、結倉の人間でもない者が、その事情を知るはずがない。
 林吾は老人をまじまじと眺めた。

「なんか勘違いしてるみたいだけど、オレたちは歩いてたらここにたどり着いただけだぞ。ここがどこかも知らねーし、出てけっていうならすぐに出てくっての。頼むから――」
「おおーい!」

 林吾の嘆願にかぶさるように、男の声が聞こえた。
 縁側に向かって走ってくる男が数名。さきほど実臣たちを連れて行った者たちだった。

「た、大変だ~、あいつら逃げたぞぉ!」
「なに……?」
「見張りがのびてんだぁ! 小屋はもぬけの殻だ、手分けして探せーっ!」
「……先輩たち」

 林吾は隣に置いていた傘を掴むと勢いよく立ち上がり、土間に駆け出す。靴もひっつかんで、そのまま走りだした。

「あ、お前、どこへ行く!」
「先輩たちを探すに決まってんだろ!」

 背後から男たちの喚く声が聞こえたが、林吾は無視する。
 とにかく逃げた実臣たちと合流しなければ。今、自分たちが置かれている状況や場所はさっぱりわからなかったが、ふたりに会えばなんとかなるはずだ。きっと。
 村を突っ切っていると、林吾を見て驚く女子どもの姿が視界を横切っていく。

(あれ、あいつ……)

 見知った顔があった気がしたが止まるわけにはいかない。そのまま林吾は走り続けた。老人に連れられ、下ってきた坂を全力で駆け上がり、息を思い切り吸い込む。

「せんぱーーーーい! 実臣ーーーーっ!」

 耳を澄ます。
 だが聞こえてくるのは風に混じる、葉擦れの音だけ。

「ちっくしょう……せんぱーーーい! っげ!?

 後ろを振り返ると、かなりの数の人間が追いかけてきていた。ひとりが林吾を指さす。捕まるわけにはいかないので、仕方なく薄暗い竹林に飛びこんだ。
 こういうとき実臣ならばどうするだろうかと林吾は考える。彼ならば、捕まえられていた小屋から飛び出したあとは――? まずは自分を探すだろうか。いや、判者を優先してとにかくここから離れる可能性もある。

「あー、ぜんぜんわっかんねぇ~! 返事してくれぇぇ! 実臣ぃー!」

 見渡す限りの竹林に、林吾は途方にくれた。隠れる場所なんてどこにもない。ここにいればすぐに見つかってしまうだろう。

「てことは、実臣たちは違う場所に向かったってことか? ……あっちのほうが明るいな」

 林吾は目をぎゅっと細めると、一か八かで明るい方へと走り出す。
 ぐんぐんと大きくなっていく光へ飛び出した林吾は、眩しさで一瞬、目をつぶる。顔にどっと風が当たった。

「桃園くん?」
「え――」

 柔らかな声に目を開けると、そこにいたのはさきと実臣。驚いた表情を浮かべ、ふたりは目を見開いていた。林吾の口がパカリと開く。

「み、見つけたぁぁ、せんぱぁぁぁい!」
「馬鹿、飛びかかるな!」

 実臣がふたりの間に立ちはだかり、手を突き出した。

「なんだよ、せっかくの感動の再会に!」
「よく見ろ! こっちは崖だっつーの!」
「え……うげ!? おわわっ」

 つんのめりながら林吾は立ち止まり、実臣は額に手を当てる。

「ったく……」
「桃園くん、よくここがわかったね」
「あ、勘っす! 返事なかったんで、とりあえず駆けずり回って、ここに来ました!」
「犬か」
「うっさい。それより実臣、ちゃんと先輩を守ったんだろうな。先輩、怪我はないっすか? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ありがとう」

 さきが笑いかけると、林吾はほっとしたように笑う。
 それを見ると実臣は不敵に唇を歪めた。

「守るもなにも、判者さんの大活躍で逃げ出せたんだぞ、こっちは」
「そうなのか?」
「見張りがいて、唯一の戸もつっかえ棒で出られなくてよ。どうしたもんかと悩んでたら、彼女が倒れるふりしてくれてさ。見張りを呼んで、中に入ったすきに――」

 実臣がげんこつで殴るマネをする。

「がつんって」
「……まじか。先輩すごいっす!」
「いえいえ、私はフリしていただけで、逃げられたのは鷹屋さんのおかげだから」
「で、これからどうする?」

 真面目な声のトーンになった実臣に、さきと林吾も表情を改めた。
 どうしたいのかは明白だ。ここからすぐに結倉へ戻りたい。だが、どうすればいいのかがわからない。

「オレ、さっきの変な霧雨が降ってきたら戻れそうな気がしてんだけど」
「うーん。でもそもそも、あの雨が原因なのか?」
「わかんね。オレの勘」
「また勘かよ」
「うっさい。さっき勘当たったしぃ! でも降る気配ゼロだよなぁ」

 林吾が空を見上げながら自分の黒い傘を差す。

「桃園くん、その傘かわいいね。さっきは気づかなかったよ」

 さきは黒い傘の生地に描かれた、小さな木の葉を指で示した。

「え、なんだこのイラスト。こんなのついてたっけ?」
「気づかなかっただけだろ」
「いや待て。この傘の骨、折れてない。これオレの傘じゃ――」
「いたぞーッ!」

 大きな声が響き渡る。大人数の足音が、暗い竹林から近づいてくるのがわかると、三人は顔を見合わせた。

「やば、見つかった」
「まずいな。逃げ場ないんだけど」

 背後の崖を見て、実臣が頬を引きつらせる。
 さきは次々と姿を現す人々を見た。どの顔も険しい。中にはすきや熊手を持っている者もいる。あれを、どうするつもりなのだろう。想像してゾッとする。

「こんなとこにいたか」
「もう逃げられねぇぞ!」
「さっきはよくもだましやがったな!」

 口々に言う言葉に、林吾はむっと唇を引き結んだ。

「だますも何も、ひどいことしたのはそっちだろ!」
「何をぉ! おまえ、仲間に向かってなんだその言い方!」
「誰がお前たちの仲間だーッ!」
「黙るがいい!」

 人々をかきわけ、先ほどの老人が三人の前に立つ。
 そして林吾を見上げると、ため息を吐いた。

「よくわからないことをしたのはそっちだろう。せっかく、こちらは好意を示してやったのだぞ。しょせん、あんなへんてこな場所に住んでいる者だな。妙ちきりんでもしかたあるまい……」
「おい、へんてこ言うな! 結倉を馬鹿にすんなよ!」
「林吾、落ち着けって……」
「結倉? おい、あいつあんなとこから来やがったのか」

 結倉という名を聞いたとたん、周囲はさらにこわばった表情を浮かべ、林吾たちを睨む。まるでそこから来た者は、すべて排除すべしとでも言うように、じりじりと崖の淵まで追い詰めてきた。

「待て、俺たちは結倉に戻りたいだけだ。ここにはなんの用事も――」
「この里に何をしにきた!」
「よからぬことを考えてるんだろう!」

 こちらの言い分を一切聞かない男たちの態度に、実臣はさきを庇いながら、軽く舌打ちする。このままでは崖から真っ逆さまだ。

「待って、待ってよぉ!」

 殺気立った空間に飛び込んできたのは、小さな影。林吾たちと男たちの間に入ると、両手をせいいっぱい伸ばして、立ちはだかる。

「この人をいじめないで。恩人なんだ!」
「……あれ、お前」

 林吾は、あっと声をあげた。そこにいたのは林吾が傘をあげた子どもだった。そういえば里から逃げ出すとき、姿を見たような気がする。
 子どもは林吾を見上げると、困ったように笑った。

「兄ちゃんが、まさかこんな早くに来るなんて思わなかったから、みんなに説明できなかったよ」
「えーと……なんの話だ?」
「傘、使ったんでしょ?」

 林吾は首をかしげると、手にしていた傘を軽く振った。

「これのことか? いや、家の前に立て掛けてあったし……てか、あげるって言ったのにわざわざ返しに来てくれたのはいいんだけどよ。この傘、オレんじゃないみたいだ」
「うん、知ってる。その傘はボクが兄ちゃんに特別にあげたヤツだよ。兄ちゃんがくれたのはちゃーんと持ってるもん」
「特別?」
「うん!」

 うなずくと、子どもは大人たちに目を向ける。

「この人はボクが傘をなくしたときに、新しい傘をくれた恩人なんだ。だから傘を作って、お礼にこの里へ招こうと思ったんだ」
「なんだと、そりゃ本当か?」
「……そうか、だからあの傘を」
「なんだよぉ、俺はてっきり別の土地からやってきた仲間とばかり」
「おいおい、だったら最初からそう言えよ」
「いやぁ、焦ったぜ。あげくに結倉から来たとか騒ぎ出すからさぁ」

 先ほどとは違うざわめきが周囲に広がった瞬間。
 ぽぽぽぽぽん! と至るところから煙が立ち上る。ぎょっとした林吾たちが思わず身を引くと、煙の中から現れたのはなんとタヌキたちだった。

「えええっ!?」
「えへへ、ごめんね、兄ちゃん驚いた? ボクたち『傘差したぬき』って呼ばれてる妖怪なんだ」

 子どももなんとも愛らしい仔ダヌキになっている。

「よ、妖怪ぃ!?
「ボクたちみんな、傘を持っててね、ボクたちを妖怪だって知らずに、雨宿りしたくて傘に入ってきた人間を知らない場所に連れてったりして、よくだますんだぁ」
「おいおい!」
「でもボク、その大切な傘を失くしちゃって……悲しくなってたときに、兄ちゃんが自分の傘をくれたから嬉しくて」

 つまり、そのお返しに子どもは林吾に特別な傘を作ってくれた。林吾はそれとは知らずその傘を持って出かけた。その結果、里に来るはめとなり、林吾たちも里の者たちもどちらも話が通じないというややこしい展開になった――ということだろうか。

「いや、そういうことなら説明書きとか置いてけよ!」
「びっくりさせたくて☆」
「びっくりどころじゃねーって!」

 あまりの展開についていけず、林吾は呻き、さきと実臣は互いに顔を見合わせる。
 しかしある意味とんでもない仔ダヌキの説明に、他のタヌキたちは納得をしたようで。「そうかぁ」「なんだぁ」と、お腹をポンポン、ポンポコと叩いて笑っている。

(……か、かわいい)

 先ほどまでの緊迫した状況から脱することができたことに、ひとまずほっとすべきだろう。まだ少し信じられない気持ちもありつつ、さきは胸をなでおろす――しかし。

「なるほど、その者がお前の招いた【客人】なのはわかった。だが連れのふたりは違うであろう」

 老人の姿からもとに戻った老ダヌキだけは、難しい顔をして腕を組んだままだった。

「えっと、それについてはボクもわからないや……」

 困ったように仔ダヌキが言うと、林吾は一歩前に出た。

「オレがこいつの傘だって知らずに持ってたとき、先輩たちも一緒に歩いてたんだ。だから巻き込まれたのかも」
「それはおかしいよ。傘を持っている人だけが招かれるはずだもん」
「そ、そうか。じゃあ……うーん?」

 タヌキの群れと林吾が一斉に首をひねる。
「シンクロしてやがる」とボヤきながら、実臣は息を深く吐いた。

「彼女が判者っていうのも関係してるんじゃないか?」
「判者……それは結倉の人間がやってる、神の真似事か」
「それ、さっきも言ってたけどよ、真似事とか言うなっての。先輩が……判者さまがいなけりゃ、結倉はとっくに大変なことになってんだぞ」
「そうなったのはもともと全部、言霊の神さんを追い出さんからだろうて。自分の力の影響も考えず、土地神さんに言い寄るような神を、いつまでもあんなふうに……」

 林吾に向かって、老タヌキは不満げにぶつくさと言う。

「なんでそんなこと、お前たちに言われなくちゃいけないんだよ。土地神さまは産土うぶすなを喪って悲しんでるんだぞ」
「林吾、やめろって」
「だってさー!」
「そんなこと? 馬鹿を言うな。陰の気が強すぎて、放っておけば常夜とこよと繋がりかけるような場所なんざ、この世で他にあるものか。おかげでわしたちのようなかくれ里を持つ妖怪は、みんな大迷惑を被っておるんだ」
「それ……どういう意味ですか?」

 気になってさきが口を開くと、老ダヌキは、ふんと鼻息を荒くする。
 彼が説明したのはこうだった――
 かくれ里は、この世とあの世、そのふたつの狭間にできた繊細で微妙な空間なのだと言う。一方、常夜は強烈なエネルギーの塊なので、万が一でも結倉と通じるなどということがあれば、ことわりが崩壊し、かくれ里などあっという間に常夜に巻き込まれ、消滅してしまうのだそうだ。そういった里は、この妖怪タヌキたちが住むところだけでなく、実に「夜空の星のように無数に存在している」らしかった。

「あんたたちはもっと自覚してほしいもんだ。結倉のせいでどれだけ多くの妖怪が、常に戦々恐々としているかをね」
「でも今までちゃんと保ってきたじゃないか」
先達せんだって危なかったのを忘れたか!」

 ピシャリと投げつけられた言葉に、三人は顔を見合わせた。
 それを言われると何も言えない――

「みなさんを不安にさせてしまい、ごめんなさい。私が別の土地に暮らしていたため、判者の交代に滞りが出てしまったんです。今後はあのようなことが起こらないよう尽力いたします」

 さきが頭を下げると、慌てたように林吾が飛びついた。

「先輩が頭を下げることなんてないっすよ!」
「でも、私たちの世界だけじゃない、見えない場所にもいろいろな影響があるんだって教えていただいたわけだし」
「ふん、少しはわきまえているようだな」

 老タヌキは鼻をひくつかせると、組んでいた腕を解く。

「今、わしが言ったことを忘れるでないぞ。さもなくば二度と結倉には戻れない場所まで連れて行ってやるからな」
「脅しかよ!?
「ううう、兄ちゃん、ごめん。せっかく里に招待したのに、こんなことになっちゃって……」

 仔ダヌキがしょんぼりとうなだれると、林吾は喉をつまらせた。

「お前のせいじゃねぇって。あの傘、気に入ってくれたならよかったよ。あと果物サンキュな。帰ったら食べるから」
「うん!」
「……ところで爺。ここに来たとき、先輩と実臣は贈り物つってたけど、あれはどういう意味だ?」
「そのまんまの意味だ。お前はタヌキの傘を持っていたからな。よその土地からきた『傘差したぬき』だと思ったのさ。だから仲間になるために、貢物をよこしたと思っただけだ」
「……人間なんかもらってどーすんだよ」
「そうさな、場合によっちゃ食っちまうかもな」
「なにぃぃぃ! 先輩をそんなふうに思ってたのか! このやろ、こっちにこい! お前こそタヌキ汁にしてやるー!」
「ひ、ひぎゃぁっ!」
「待て待て、林吾!」

 つかみかかる林吾を実臣とさきが必死に抑えるが、ひげを掴まれた老タヌキは泡を食う。他の大勢のタヌキも、これは大変と押し合いへし合いで 、ふたりを引き離そうと詰めかけた。

「と、とっとと、出ていけぇい!」

 老タヌキが腹をポン! と思い切り叩く。
 はっと気づいたときには、さきたちは仲良く正座をして道端に座っていた。

「え……」

 周囲を見渡す。とっくに日は暮れており、空は闇に包まれていた。しかしそこは三人が先ほどまで・・・・・一緒に歩いていた、結倉の見慣れた道。

「戻ってきたのか?」
「よかった……」
「よくねえっすよ、あの狸爺~~~!」

 勢いよく立ち上がり、林吾が吠える。

「今度あったら、ぜってぇ許さぁぁん!」

 ぬおおお、と叫ぶ林吾の声に混じり、背後からの足音にさきは振り返った。奏一や舞依、真秀とみことの姿が目に飛び込む。四人はさきたちに、一生懸命に手を振っていた。

「どうやらみなさん、私たちを探していたみたいですね」
「本当だ……奏一さーーーん!」

 ほっとした、その瞬間。

「――実は数日、経過してたりして」

 冗談めいた実臣の言葉に、さきと林吾は固まったのだった。
次の話
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